Q&A:低価格刺しゅうミシンでワッペン



個人でオリジナルワッペンを作成、販売するために、
刺しゅうミシンの購入を検討しています。
いきなり業務用のものが買えれば良いのですが、
まずは、
brother の家庭用刺しゅうミシン+刺しゅうPRO の購入を考えています。

低価格の家庭用刺しゅうミシン(10万円前後)で、
あるていどの精度・クオリティの刺しゅうワッペンは制作可能でしょうか。




お問い合わせの件、お答えいたします。

「あるていどの精度・クオリティー」というのは、
人によって基準がちがうかもしれませんが、
お客さまが購入候補にあげているすべてのミシンで、
ワッペン製作はそこそこおこなえると思います。

問題は、精度というより「耐久性」だと思います。
ワッペンなら、適した生地素材を使いますし、
刺しゅう糸密度をそれなりに高く設定する場合もあるはず。
じつは、思ったより過酷な用途です。

想定しておられる、
「4〜5cm のワッペンを1日10枚ずつ量産するペース」
だと、
デザインや縫いの設定によりますが、
縫製時間1枚15〜30分平均と仮定して、
単純計算で「150〜300分/日」という使い方になります。
最低価格帯のミシンだともっと時間がかかるかも。

家庭用刺しゅうミシンでも問題ないと思いますが、
ミシンの耐久性能というのは、
価格とわりときれいに連動しているので、
そのへんどう割り切るか、という感じでしょうか。

最低価格帯の刺しゅうミシンでも数年使えるかもしれません。
でも、半月でがたがたになったとしても不思議ではない。

低価格機はそういう振り幅がどうしても大きくなります。
「機器の当たり外れ」もありますが、
使い方によって寿命がまったく違ってくる。
海千山千でミシンに慣れた方は、
「どういう使い方をすれば壊さずにうまく使えるか」
を知っているので、あんがい長く使えます。
慣れていない方はどうしても試行錯誤が必要なので、
ミシンに負荷をかけがちです。

低価格機はその負荷に耐えられる構造を捨てている。
だから「低価格」なんですね。

低価格刺しゅうミシンが、
オリジナルワッペンを製作、販売されようとする方の、
使用(量)に耐えられるかどうかというのは、
正直、微妙なところだと思います。
「たまに刺しゅう、たまに繕いものをするためのポータブルミシン」
と考えるべきかもしれません。
当店的にはおすすめできない価格帯のミシンです。

オリジナルグッズを作って販売したいという方で、
最低価格帯の刺しゅうミシンを手に入れた方は、
わりとすぐに買い替えられるんじゃないかな。
当店にはそういうお客さまが多くこられます。

刺しゅうPRO とミシンを同時購入されるのなら、
刺しゅうPRO はなくちゃはじまりませんので、
「予算の範囲でできるだけ大きな刺しゅう枠が使えるミシン」
という考え方をされるのがいい。

「まずは廉価なミシンを通販で」
みな最初はそう考えるのですが、
じつはそのほうが結果的に高くついちゃった。
そういう事例を多く見聞きしています。

お客さまにミシン刺しゅうをお教えしない(できない?)
量販店やミシン店の方は、
「すべてが自動だから簡単だよ」
そういって高額なミシンをおすすめするようです。
「高いミシンがいい」というのはまちがいじゃありません。
「耐久性」と「より大きな刺しゅう枠が使える」ということを考えると、
それはたしかに正解です。

でも、ミシンは「自動=簡単」なんでしょうか。
ならば、
どうして刺しゅうミシンを買ったあとで、
「うまく使えないなあ」と悩むお客さまが出てくるのでしょう?

     *     *     *

当店で購入されるにしろ他店で購入されるにしろ、
「刺しゅうデータを作ることができる」スタッフのいるお店で、
刺しゅうミシンや刺しゅうPRO を購入されることをおすすめします。

教えられない店は後ろめたさもあるのか(笑)、
なかなか大胆に値引きしてミシンを販売しているようですが、

・その機能は使ったことがないのでわからない。
・自分で工夫してほしい。
・メーカーのサポートサービスを利用してほしい。
・指導料や出張費がけっこうかかりますけどいいですか。

と、「簡単ですよ」と販売するわりに、
お客さまの質問や疑問になかなか応えてくれないようです。
そういう店に当たってしまったお客さまの、
「駆け込み寺」に当店はなっていますが、
当店も自店のお客さまをサポートするので手一杯な状況です。

ミシンはともかく、
「コンピュータ関係の話にはできるだけ近寄りたくない」
そういうミシン店も少なくないんですね。
残念ながら。

以前、全国の錚々たるミシン専門店の方々を前に、
「フォトステッチ講座」をさせていただく機会がありましたが、
「画像の加工に Photoshop を導入しましょう」
というお話をすると渋い顔をされる方も多かった、じつは。
「Photoshop Elements からでも使ってみるといいじゃないですか」
と水を向けると、
「それでも高いよね……」と眉間にしわを寄せたまま。

「フォトステッチに関心のある」ミシン専門店の方でもそうですからね。
ましてや、そうでないミシン量販店においておや。

刺しゅうの相談を一緒に解決してくれるミシン店がなかなかない。
東京や大阪、名古屋のお客さまですら、
鹿児島にある当店で相談・購入される。

うれしくないとはいいませんが、
正直、複雑な気分にさせられる状況がある、というのも実情です。

でも、嘆く状況ばかりではない。

インターネットの普及は、
当店のお客さまサポートにたいへん役に立っています。
直接、面と向かっての講習はできなくとも、
かえって深いレベルのやりとりが、
日常的におこなえるようになりました。

距離が足かせにならないサポート体制は、
改良すべき点は山のようにありますが(笑)、
当店の自慢とするところ。

安心して、刺しゅうミシンの深くおもしろい世界に、ぜひ!