刺しゅうPRO:フォトステッチ ムンク「叫び」




今回の刺しゅうは、
エドヴァルド・ムンク「叫び」( Edvard Munch : The Scream)です。

サイズ:350mm×350mm
484,358針(50色)
ミシン:brother PR1000e
アプリ:Photoshop CS5、刺しゅう PRO(刺しゅうプロ)NEXT
制作:Akihito Kouno





ムンクの「叫び」を刺しゅうしなければならない。
朝、そんな確信とともに目がさめました。

これを、
「神の啓示」という人もいるだろうし、
「わたしのゴーストがささやくのよ」と描く人もいるだろうし、
「デイモンがそう指図するのでね」と書き残す人もいるでしょう。
ただたんに寝ぼけていただけ?

ともかく、
この内とも外ともいえないところから発せられたことばには、
すなおに耳をかたむけてみよう。
あわてて刺しゅうデータの準備に取りかかりながら、
「確信」だけはどんどん大きくなっていきます。
不合理ゆえに吾信ず。
ああこれは、いま、作らなければならないものだ。

そしてできたのが、この刺しゅう。
予定よりも半日早く完成することができました。

     *     *     *

友人に「模写」を趣味としている男がいます。
画集を横において、
その絵を色鉛筆や水彩絵の具であらためて再現しようとするのだそう。
作業できるのは夜の数時間。
何日もかけて模写することでその絵を味わうのだとか。

「めんどくさい鑑賞方法だなあ」
はじめて聞いたときには思ったものですが、
いまなら、わかる。
それはじつに深い体験なんです。

画集で眺める、美術館で目をこらす、
さまざまな媒体で目にとめる。
なんども何時間も見ているはずだし、
そのイメージは脳裏に焼きついていると思っていたのですが、
いやあ、じつはぜんぜん「見ていなかった」。
そのことに、今回、あらためて気づかされました。

30時間かけてステッチを重ねる刺しゅうミシン。
その前にずっとすわっていたわけではありません。
仕事の合間に、ちらちらと眺める。
きちんと縫えているか、チェックする。
それでも、完成までこうして何日もつきあっていると、
全体の構図から色彩、細部のタッチまで、
ありとあらゆるものが身に染みるように入ってくる。

刺しゅうをしながら絵を眺めるということ。
それはとてつもなくぜいたくな「鑑賞」方法でした。
額装しているときは、すでに夢見心地。

     *     *     *

はじめてこの絵を見たのはいつだったか。
小学校の図画工作の教科書あたりが、
最初の出会いだったのではないかと思います。
たぶんそのときの印象は、
「ちょっと怖い、暗い、人を不安にさせる絵だな」
という感じだったのではないかと。
が、いまはそういう印象ではなくなりました。

なんというか、たいへんこころが落ち着きます。

自然を貫くはてしない叫びに、耳をふさいでおそれおののく。
そういうさまを描いていながら、
この絵そのものは「静謐」です。
まるでそもそも音が存在しない世界であるかのような。

そしてそういう絵がこの世界に存在することが、
ともすれば波打ちがちなこころを鎮めてくれる。

あらためて画集で確認してみると、
この有名な絵、実物はもっと「青い」です。
もっとくすんだ感じですね。

「記憶色」ということばがありますが、
個人的に、
目を閉じて呼び起こす記憶のなかの「叫び」は、
実物よりあざやかな色彩をもっています。
このフォトステッチではそのイメージに近づけてみました。

なので、
これはムンクの絵であると同時に、
個人的な記憶の再現でもあるともいえます。
オリジナル、とは語弊もあるので主張しませんが、
これが《わたしの「叫び」です》という感じ。

本物よりも、
わたしにとってはこちらがムンクの「叫び」なんです。





サイズをイメージしてもらうために、
ただいまキャンペーン中baby lock BL69WJ の横に、
額装してならべてみました。

大きすぎず、小さすぎず。
このくらいの大きさならどこに飾ることもできますね。