大隅ブラザー、大いに怒る



某メーカーのロゴをつけた車で、
ミシンの訪問販売・修理をされている方が同じ地域にいるということは、
狭い地域・業界のこと、当然、知っていました。

つねにかならずというわけではないと思いますが、
その方がたいへんずさんな修理をし、
場合によってはかえって調子をダメにして、
磨き上げた中古のミシンを「新品だよ」と偽って買い替えを勧めたり、
100均の店で買い揃えたとおぼしき部品を、
「純正品」と称して販売しているらしいということも、
狭い地域・業界のこと、耳に入ってきます。

とはいえ、
目の前で直接目撃しているわけではないので、
こちらからどうこう動くわけには、なかなか、いかない。

それでも、
上記のような対応をされると、
感じるお客さまはちゃんと感じるので、
そのあと当店に相談にこられたりする。

「あの人に点検してもらったのはいいけど、
 そのあとかえってミシンの調子が悪くなった」

「修理後、交換した部品の形が合ってないように見える」

「いきなり訪問してきて、
 ミシンを《見せてくれ、見せてくれ》としつこいので怖くなった」

同業他社(者)の悪口はたいへんみっともない。
当店としては、
入ってくる情報はお客さまの云い分だけで、
そのとき実際にどういうことが行われたのかは知ることができない。
というわけで、
その同業他社(者)への論評は避け、
目の前の事実、ミシンが壊れているか、交換部品は純正か、等々、
チェックさせていただいて、
お客さまと「では、どうするか」と相談しながら対応してきました。

ところがどうもこの同業他社(者)、
当店でミシンをお買い求めいただいたお客さまのお宅に訪問して、
非純正のサイズの合わない備品を売りつけたり、
「大隅ブラザーは代が変わってからミシンの仕事をやめてしまった。
 あとは私が面倒をみてあげますよ」
と云ってまわっているということが、
複数のお客さまから耳に入ってくるようになってきました。

ほほー、おもしろいこと、やってくれるじゃない。

当店のほとんどのお客さまは、
当店のサポートや講習を受けているので、
「どうしてそんなウソをつくのかしら?」とわかってもらっています。

でも、なかにはそれを信じてしまう方もいる。

本日、修理でお伺いした、
「JUKI SL-300EX の調子が悪くなった」というお客さまは、
大隅ブラザーは廃業してる、という話は一笑に付してくれたのですが、
合わないボビンをその方から購入してしまった。
そのためミシンの調子が悪くなっていたのでした。

当店のあることないこと云ってまわるのは、ま、百歩譲って許したる。

でも、当店のお客さまにこのような「実害」が出ているとなると、
ホトケの大隅ブラザーとてさすがに怒りがこみ上げてくる。

「こんど見かけたらばしっと云ってやらんと気がすまん!」
お客さまのご自宅からの帰り道、そんなことをつらつら考えていたのですが、
その機会、2時間後にやってきました。

なんと、その同業他社(者)当店に訪問してきましたよ。

「なにかごようです?」
と訊くと、
「brother のメス(ロックミシンの刃)をくれ」
と云う。

ミシン修理で必要なんでしょうね。
こういう同業他社(者)は、
メーカーと直接取引していない(できない)ことも多いので、
パーツ専門の問屋やミシン専門店に譲ってもらうかたちで、
修理交換部品を調達してるのかもしれません。

しかし、いきなり「くれ!」はないよなあ。

「もうしわけないですが、お分けすることはできません」
と返答すると「なんで?」と訊かれたので、

おお、じゃあ、その理由、聞かせたるわい!!!

ということになり、
お客さまの情報が出ないよう最大限留意して、洗いざらい。

で、当店がいつ廃業したって?

「そんなこと云ってない。
 そんなこと云うわけない。
 大隅さんは手広く商売してますと宣伝してやってるくらいだ」

すっとぼけた話が返ってくる。

「私も、
 からだを壊して寝込んでいるだの、
 そのまま半身不随になって廃業しただの云われることがある。
 どこかのミシン屋が云ってまわってるんじゃないかと思ってる」

暗に「おまえも似たようなことしてるんじゃないか」
というようなことを延々と語り始める。

知らんがな。

うんざりするも一応「からだ壊してたんですか?」と訊くと、
「十年くらい前に入院したことがあった」とのこと。

あ、そ。
あんたの体調なんて耳にしたこともないし関心もないけれどな。

しかし、
まあ饒舌にぺらぺらぺらぺら訊いてもないことまでよくしゃべる。
そのくらい元気なら、まだ当分、仕事、できちゃいますね。
ご健康、なにより。

しかし、
「云った・云わない」のやりとりほど不毛なものはない。
大隅ブラザーはヒマだけど忙しいんだ。

「すくなくとも私はたいへん不機嫌なので部品を譲る気なんてないし、
 あなたのお客さまにあなたのことでなにか云うつもりもない。
 同業者なんだから、業界が白い目で見られないよう、
 おたがい、ひとつひとついい形の仕事していきませんか」

とお伝えして、丁重にお引き取りいただきました。

年齢が上の方にこんなこと云わなきゃいけないのは哀しいもんです。
諭す立場なんて性に合わない。
大隅ブラザーは「異端」とか「掟破り」とか「前例無視」とか、
どっちかっつーと先達に諭される立場でいたいものだと、
つねづね思っているのでね。

     *     *     *

いつかなにかどこかで目にした、
「店に入るのが怖い業種」というアンケートに対する答えで、
「町のミシン専門店」がめでたく上位にランクインしておりました。

「入っていったら高額のミシンを売りつけられそう」
「理不尽な修理代金を請求されるのではないか」
というイメージなのだそう。

当店がいつもお世話になっている先達のミシン専門店は、
みなさん「お客さまをいかに大切にするか」にたいへん心を砕いておられる。
すばらしい店もちゃんと多いのです。

でも「入るのがほんとうに怖い店」そういう店もまだあるのかも。

ミシン業界には、
悪い業者が悪い販売方法で荒稼ぎしてきた「訪問販売」全盛の時代があります。

ひとり暮らしのお宅に居座って契約書にハンコを押すまで帰ってもらえないとか。
壊れていないミシンを壊れていると騙して買い替えを勧められるとか。
ミシンの説明もなくいきなりクレジット契約書類に記入を求められるとか。

かつてそういう経験をされた方は、
やはり「ミシン専門店、怖い」と感じられたと思うし、
その思いを抱き続けている方、いまでもけっして少なくない。

ミシンは、昔とはちがいます。
「一家に一台」「嫁入り道具に新調する」なんて時代はとうに終わりました。
ミシンにいちどもふれることなく生涯を終える。
そのほうがむしろ大多数、そういう時代になりつつあります。
ミシンメーカーの営業担当者のなかにすら、
「かつての編み機のようにすべてなくなってしまうのではないか」
と危惧を口にする方もいる。

そんなことにならないようにがんばっていこう!
メーカー、ミシン専門店「業界のかけ声」は耳にしますし、
「ミシン文化を守ろう・育てていこう」と努力している人も企業もたくさんある。
(非力すぎる当店はその数にはカウントされないのですけれど)

でも、かつての「黒い」時代はまだ終わってないんじゃないでしょうか。

「違法な形での訪問販売」や「おとり販売」をしている業者の話は、
絶えることはありません。
被害を受けた方から相談を受けることもあいかわらず、ある。

業界あげてのどんな真剣な取り組みも、
暗躍する業者のイメージで台無しになりかねない。
高めていく努力をしながらも、
低めてしまう部分には厳しく対応していく姿勢。
これ、忘れたフリしてる・見て見ないフリをしてる方もじつは多いのですが、
業界全体で取り組まなければならない大きなテーマだと思います。
自戒の念を込めて。

なんて。

上記のような話はお客さまには関係のない内輪の話かもしれません。
チラシの裏にでも書いて捨てておけばいいこと?
お目汚し、もうしわけない。

でも、同時にこれがいちばんお客さまに関係する話だと思うのだ。

なんてことをあらためて考えさせられる出来事だったので、
あえて記し残しておくことにします。
そう、やはり自戒の念を込めて。

ミシンくらい、セコイことせず、お客さまにまっとうな形で買ってもらおうぜ。
ご同業。